昔から私は恵まれていた。
自慢だが、私より可愛い女の子を見た事がない。加えて頭も良かったので、周りからの嫉妬も難なく回避し、上手く立ち回ってきた。
では、性格も完璧か?
そう言われると自信が全く無い。皆無だ。
顔が可愛い子は性格が悪い。これは本当の事だと思う。
じゃあ性格が良いように見せかければ良い。
無いものは作る。持ってないものは手に入れる。当然の考えだと思う。




「佐藤さん! 付き合って下さい! 」

放課後、誰もいない教室で。顔を真っ赤にした男子に秘めた思いを打ち明けられる。

女子なら誰もが想像するワンシーンだろう。
だが、完璧な私がこのシチュエーションに遭遇したのは入学してから十回目だ。入学したの三ヶ月前だけど。
こいつは、何回か話をしたことのあるサッカー部か。
頭も顔も普通。特技はサッカー。趣味はサッカー観戦。絵に描いたようなスポーツ少年。

お前みたいなのと付き合うわけないだろ。私を誰だと思ってるの?
本音はこんなところだ。当たり前だけど口には出さない。
だから、笑顔で返答をする。何回も言ってきたあの言葉を。

「ごめんね、私好きな人いるの。」

勿論嘘だ。当たり前だよね? 私に釣り合う人なんてなかなかいないもん。
断り方にしたって色々あると思うけど、私がこれを選ぶのには理由がある。

好きな人がいた。だから、振られちゃったんだ。友達に言い訳するのにピッタリな台詞でしょ?
後はその友達が言いふらしてくれればいい。
そうすれば、佐藤さんの好きな人ってもしかして俺じゃないか?
なんてちょっと気のあるフリをすればすぐに乗ってきてくれる。お手頃だよね。

今までこの作戦が通用しなかった事はないのだ。だから油断していたのかもしれない。




「佐藤さん、好きな人って誰!? 」

次の日、教室に入るとクラスメイトの視線が一斉に私へ向けられた。
あいつか、昨日口止めしておいたのに。
相手に一応口止めをすると自分の友達だけに言ってくれ、男子だけに広まる仕組みになっている。
しまった、昨日告ってきた奴はクラスの中心メンバーの一員か。そりゃあ広まるよな。しくった。

「な、なんで? 私、、。林くん? 」

困惑したように演技をして、昨日のやつの名前を呼ぶ。
すると罪悪感の塊です。なんて顔をしていて笑えちゃう。ごめんね? 一応心の中で謝っておいた。

「黙っててねって約束したのに。」

「え、いや、言うつもりなかったんだよ! こいつらが勝手に、、。」

「でも、友達に言いふらしたんでしょう? 最低!! 」

私が呆然と立ち尽くしてますというポーズをとっているとクラスの女子たちがかわりに怒ってくれた。
あーあ、便利だなぁ。友達ってやっぱりこうじゃないとね。

「行こう! 」

親友だと勝手に思い込んでいる加奈が私の手を引いて連れ出してくれた。
後からグループのメンバーも付いてきてくれ、必死に慰めようとしてくる。どうせ私になんてたいして心配をしてないのにね。女子っていうのはめんどくうくさいなあ。

「愛梨、それで好きな人って? 」

あんなに罵っておいて自分達だけに教えろって? 傲慢すぎない?
うーん。どうしよう。ここで言わないと、うちら友達じゃなかったの? というルート入っちゃうしなぁ。テキトーに言うか。

「あのね、、三組の鈴木くん。」

「鈴木くん!? 本当に!? 」

三組の鈴木。この学年で私と同じくらい有名人だ。
頭よし、ルックスよし、運動神経よし。
ここまでなら私も持っている要素だが、ひとつだけ決定的に違うのは性格だ。
ものすごいお人好しらしい。
私も初めは同じ匂いがするからと思い、観察して見たものの、全くボロを出さない。

「ねえ、いつから? 接点とかあったっけ? 」

「、、入学してからすぐに凄い大雨降ったでしょ? あの時に傘貸してもらって。我ながらちょろいよね。」

傘を貸してもらったのは本当だ。あれから全く接点ないけど。
傘を貸してもらっただけで惚れるとかどんだけ惚れっぽいの? 自分で考えてなんだけど設定ミスったかな?

「いや、鈴木くんにそんな事してもらったら惚れる。間違いなく。」

どうやら杞憂だったみたい。
やっぱり顔が全てだよな、なんて改めて理解した瞬間であり、自分の顔に心から感謝した。ありがとうございます。これからも役に立ってもらいますよ。

「じゃあうちら、応援してあげるよ。」

うん。だいたい予想ついてた。
みんな、すっかり乗り気なようで作戦まで立ててくれてる。
でも、作戦を私の顔にしたら絶対成功するのに。
鈴木くんには申し訳ないけど落とさせてもらいますか。




ここで彼女は気づくべきだった。
己がどれだけ擬態できているか。
そして、同じ属性の人は同じ考えをしやすい事に。



「おーい、鈴木! 一組の佐藤さんもお前のこと好きなんだって! 俺、佐藤さん憧れてたのにぃ。」

あーあ。佐藤さんは落とし甲斐あると思ってたのに。残念。