「あ…」


 立ち去ろうとしたみのりを、紘平が腕の中に戻す。

 爽やかなコロンが鼻をくすぐり、みのりの気持ちが足を止めた。



「紘平さん、放してください…行かないと」

 そう言うけれど、押し返す力が弱いのは、自分も名残惜しいせいだ。


「仕事の後に、特別ルームサービスを頼めるなら」


 耳元に甘く告げられ、みのりの頬はぱっと染まる。

 離れなければいけないのに、指先を絡められ、解くことが出来ない。



 みのりが恥ずかし気に俯くと、絡む2人の指先にはお揃いの指輪が光っていた。



 これは、もう外すことのない約束。

 あの頃も今も、2人の気持ちが変わらない証。



 みのりは黙ったまま頷いて、半身を紘平に向けて言った。



「かしこまりました」







────。

───。

──。





END