「そのうち、ユリナは体を壊してしまった」


 物を食べなくなり、一日のほとんどを家で過ごすようになる。

 ストレスによるものだろうと診断された。


 心配で見舞いに行っても、原因はお前だろうとユリナの父親に責められた。


「そのころ、会社も辞めて独立を決めたんだ」

「そんなことが…」

「俺はユリナに恨まれていたけど、でも愛されてもいたと思う」

 最後にユリナに会った時、彼女はまだ指輪をしていた。

 どんな言葉でも受けて、結婚できなかったことを謝ろうと思っていた。

 しかしユリナは、そこで紘平に罪を与えることを決めた。



「私はこの指輪は外さない、あなたも外さないで」

 紘平を睨みつけながら泣いていた。


「私に、あなたより好きな人が出来るまで外さないで」

 それが紘平にとって枷になるだろうと思ったのだろう。


「指輪を見るたび、私を思い出せばいい」

 ユリナの歪んだ愛と、悲しさを思い知った。



「幸せに出来なくてごめん」

 紘平はその約束を、これまでずっと守って来た。




「それで償いになるなら、ってね」

「そんな…紘平先輩のせいじゃないじゃないですか」

「ちがうかもしない、でも油断していたのは俺だし、同期の気持ちも考えずにもしかしたら無神経なこともしてきたかもしれない」

 若かった、と紘平は吐き捨てるように言う。