「今の会社を立ち上げる前、俺は有名なウェブデザイン会社に勤めていた」


 その会社社長の娘がユリナだった。


 しんと静まり返ったチャペルの、一番前の席に腰を下ろし、紘平は話し始めた。


「社長に紹介され、付き合うようになって三年目に、将来の約束をした」

 それは自然の流れだったという。

 お互い適齢期、そして一緒にいるうちに愛情も芽生えていた。


「ユリナはああ見えて、寂しがり屋なとこがあるんだ」

 幼いころに母を亡くし、父親に育てられたユリナは、仕事に没頭する父にあまり構ってもらえなかったらしい。


「あの通り気が強いところもあるし、嫉妬心も人一倍つよい」

 しかしそれは全部、紘平を愛していたのと、自分の中の寂しさを表に出させないせいだっただろうと理解していた。


「婚約者になって数か月後、俺は会社の重役ポストをもらえた」


 社長令嬢との婚約、そして出世。

 周りから見れば、紘平は順風満帆な人生を送っていた。

 しかし、それを同期はよく思わなかった。


 話しながら紘平は深く息をついた。

 当時のことを思い出しているようだった。



「ある日、同期の奴らと飲み会があって、やたらと酒を勧められた」


 久しぶりの仲間との酒の席だしと、紘平も気をゆるし次々に酒をあおった。

 それほど酒に弱くない紘平だが、なぜかその時の記憶がないらしい。


「翌朝、目が覚めると、知らない女性とホテルにいた」

「え…」


「飲み会での最後の方の記憶がないからわからないが、少なくとも俺は酔っても見知らぬ女を連れ込む趣味はない」


 そうだろうとみのりも頷く。