心の奥にある、じめっとした気持ちを振り切ろうと、走り続けた。

 ぶつかるような勢いで開ける、重たい扉。


 そこはホテル内のチャペルだった。

 今の時間は誰にもリザーブされていなかったため、中はしんとしていた。


 祭壇と続く通路を歩いて行く。

 本気で走ってきたせいか、息が上がっていた。



「篠田…っ」

「……!」


 背後で重たい音がする。


 入って来たのは、みのりを追って来た紘平だった。

 彼もまた本気で追いかけて来たらしい。



「…相変わらず速いな」


 大学時代はハードラーのみのりだが、リレーの控えには選ばれるくらいの記録を持っていた。

 みのりに近付いてくる息が上がっている。


「どうして来たんですか」

「え?」

「どうして私を追うんですか」

「篠田…」

 そばに来た紘平は、みのりを見つめる

 けど、それを遮るように紘平に背を向けた。



「ユリナさんがいるのに…」

「篠田、こっち向いて」

「……」

「篠田」

「…っ」

 肩を掴まれ、強引に彼の方へと向かされる。


 向き合ったみのりの瞳は潤んでいた。


「聞いて欲しいことがある」


 聞きたくない、とみのりはすぐには頷けなかった。



「…ユリナは、俺のフィアンセだ」


 核心に触れる言葉。

 みのりは心の奥に、鉛が落ちた気がした。