けたたましく、ドアが鳴る。

 ノックというには荒々しい音。


 司は反射的に動きを止めると、扉の方を見やる。


「…誰だよ」

 邪魔が入ったと、小さく舌打ちしながら司は扉へ向かう。

 ようやく解放されたみのりは、大きく息を吐いて、司から距離を取った。


 扉が開いたら、逃げよう。

 そう思っていたとき。



「──そこに篠田はいるか」

 向こう側から聞こえたのは紘平の声だった。

「…先輩」

 信じられない思いでドアを見つめる。


 司は少しだけ扉を開くと、


「…レーダーでも付いてるんすか」

「そうだ、と言ったら、もう二度と、篠田を部屋に連れ込んだりしないか」

 冷ややかな紘平の声が響いた。



「──開けろ」

 司は無駄な抵抗はしない。

 ゲームは終わり、といった表情であっさりとドアを解放する。



「篠田」

「…はい」

 返事をするみのりは涙目になっていた。


 ここに紘平が現れるとは思っていなかった。

 安堵で目の前がかすんでしまう。



「おいで」

 ただ一言、そう言われただけでみのりは走り出す。

 そして紘平の胸に飛び込んだ。


「あーあ、ほんとにこのコンシェルジュさんは、伊崎さん専属なんですね」

 しっかりと紘平に抱き留められるみのりを見つめ、司は言った。


 片手でみのりを抱き寄せた紘平は司に一瞥を投げる。

 そして空いた手でドアを閉めながら言った。


「わかったら、もう二度と手を出すな」