「あ、ほんとに来てくれた」


 ドアから顔を出した司は、みのりを見て楽し気に笑った。


 まるで悪戯を試したこどものようで、みのりは一瞬困り顔になる。


「本当に来たって…指名したのは司さんでしょう」

「いや、篠田さんは、伊崎さんの指名しか受けないのかなーと思ってたから」

「な……」

 紘平を特別にもてなしていると思われ、顔が赤くなる。


「ははっ、また顔に出てるってば」

 目ざとい司は、その様子を見逃さない。


「……シャンパンお持ちしました」

「ん、ありがと」

 司は扉を大きく開けて、みのりを中へと促した。


 エグゼクティブフロアはスイートの一つ下の階になる。

 とはいえ、一人で宿泊するには充分広く、贅沢な部屋だ。



「お注ぎしていきましょうか」

「グラスをふたつ頼んだ時点で気付いてると思うけど、ちょっと付き合ってよ」

「まだ勤務中なので…」

 窓際にシャンパンクーラーとグラスを乗せたワゴンを置く。


 栓を外そうと、シャンパンに手を掛けたときだった。


「俺が伊崎さんでも、断ってた?」