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 賑わいを見せるバーの入り口で、みのりは一瞬躊躇した。

 紘平とスタッフたちが、打ち上げで数時間貸し切りとしている。
 
 先ほど、フロントでクライアントを見送った紘平は、先方の社長と笑顔で握手をしていた。

 それはプレゼンの成功を表していた。


 人だかりの中にいる紘平の笑顔を見ると、みのりもほっと胸をなでおろした。



「あれ、篠田さん」

「あ…司さん」

 背後から声がして振り向くと、司が立っていた。

「今から打ち上げに今から混ざるんですか?」

「うん、ちょっと仮眠してたから…」

 言う司は、ふぁ、と大きな欠伸を漏らした。



「お疲れ様でした」

 司もここ数日、だいぶ睡眠不足だったにちがいない。

 紘平のサポート役として、目まぐるしく動いていたのは想像できた。

「ありがと。おかげさまで上手くいったよ」

「それは良かったです」

「ほんとだよ。さすがに俺も、今回は死ぬかと思ったね」

 未だ眠たげな眼でそう言う司は、しかし満足げな様子だった。

 やるときはやる司の仕事ぶりがうかがえる。


「ところで、篠田さんはここで何してるの、打ち上げに呼ばれた?」

 一緒に行く? と促されるが、みのりは首を振った。

「いえ、伊崎先輩に言付けがあって…少し急ぎだったので、直接来たんですけど」

「紘平さんに? じゃあ、呼んでこようか?」

「いえ、メモを持ってきたので、渡してください」

 小さな紙には、ユリナさんが訪ねて来たことが書いてある。


「わかった、渡しておく」

「お願いします」

 みのりはお辞儀をすると、その場を去った。