その女性は、真っ直ぐみのりの元へとやってきた。
柔らかに巻いた髪を腰くらいまで揺らし、華やかな雰囲気を連れて来る。
みのりは「いらっしゃいませ」と自然な笑みを向けた。
「伊崎紘平はいるかしら」
「は……」
その名前を聞いて、みのりは咄嗟に反応できなくなった。
「ここに一週間くらい泊ってるはずだけど」
当然のように知っているといった様子が、みのりを少し萎縮させる。
ただの知り合いではないという直感が走り、慎重に応えた。
「待ち合わせでしょうか」
「してないけど…会いに来たから、ここに呼び出して」
少しだけ早口な口調が、さらにこちらを焦らせる。
「失礼ですが、お名前をうかがえますか」
どちらにしても、紘平は今、大切なプレゼンの真っ最中。
すぐに取り次ぐことは出来ない。
すると彼女は大きな瞳を真っ直ぐに向けて言った。
「ユリナ」
ペンを取るみのりの指先が震えた。
「そう伝えてもらえれば、わかると思うわ」