「ここにいろ」

「はい」

 ときめきが上がりきって、素直に返事すると、


「かわいい返事だな」

「……っ」

 かわいいなんて言われたら、返答に一日中ここにいたくなってしまう。


「とはいえ、俺も篠田も仕事だな…」

 残念、と紘平は眉を下げた。


「…少しは休めましたか」

「ああ、篠田の添い寝のおかげで、ぐっすりだよ」

 よかった、と顔をほころばせる。


 すると、礼のつもりか紘平は優しい手つきで、みのりの頬を撫でた。

 まるで甘い時間を過ごしている恋人同士のようで、幸せに浸る。


 この時間を閉じ込めておけたらいいのにと本気で思った。



「──何度でも立ち向かって、飛び越えていけ」

「え?」

 みのりの突然の言葉に、紘平が瞬きをする。


「そう、言ってくれたんです、先輩が私に。大学時代」

 スランプで悩んでたいた自分の背中を押してくれた。


 その言葉に何度励まされたかわからない。

 あの後、大会でも、就活のときも、挫けそうになると紘平を思い出していた。



「そういえば、そんなことあったな、篠田がハードル飛べなくなって落ち込んでたのを思い出すよ」


 覚えていてくれて嬉しい。


 みのりはゆっくりと頷いた。


「今度は、私が先輩にそう言う番です」

「そうか」


「プレゼン、がんばってくださいね、応援してます」


 あふれる想いを抑えきれず、みのりは顎を上げ、紘平の頬にキスをする。


 少し驚いたような様子でキスを受けた紘平は、すぐに破顔して頷いた。