それはかつて、部長だった彼が言った言葉と同じだった。
 
 ケガをして、辛くても痛くても、彼はそれを部員の前で出したりしなかった。


「部員全員、全力で大会に向けてやってるから」


 ケガのことを秘密にしていて欲しいと頼まれた時、紘平は確かにそう言っていた。

 その時も、みのりは彼を見守ることしかできなかった。


 ただ一言。

「無理だけはしないでください……先輩が痛いと、私もつらいです」


 あの時かけた言葉と同じ言葉を告げる。


「ああ……」

 頷いた紘平の手が、一層強くみのりを引き寄せた。

 耳元に唇が当たる。


「……あの時も、ケガのこと、黙っててくれたよな」

「……っ」


 覚えていてくれた。

 とっくに忘れられているものとばかり思っていたのに。


「はい……」

 嬉しさに触れ向いたとき、唇が重なった。
 

 ずっとあなたを気にかけている。
 
 ずっと想っている。
 
 
 みのりの気持ちが唇の乗ると、それは深いものに変わっていった。

 夢中で求めると、紘平は優しくそれを受け止めて返す。

 2人の吐息が、スイートルーム甘く溶けていく。



「…篠田につらい思いをさせるのは、俺もつらいかな」

 唇が離れたとき、優しい声で紘平が言った。

「なら……」

「わかった、ちょっと寝る」

 みのりの真剣な眼差しに、紘平は観念したように苦笑した。

「よかった」

 ほっとしたみのりは、柔らかに微笑む。