この部屋に来るのは、何度目だろう。

 いつ来ても、紘平のいるスイートは、特別なものに感じてドキドキした。


「あれ、俺、頼んだっけ」
 
 持ってきたサンドイッチを差し出すと、紘平は瞬きを繰り返した。

「お仕事が忙しくて、ちゃんと食べてないんじゃないかと思って……」

 サンドイッチを置きたくても、テーブルの上には資料が散乱していた。


 部屋の中を見渡すと、パソコンが数台と、ケーブルやらで散らかっている。
 
 まさに缶詰め状態で、仕事に向かっているのがうかがえた。


「好きな時に、かじってください」
 
 そう言うと、ルームバーの隅にかろうじてスペースを見つけ、それを置いた。

「ありがとう、さすが気遣いのプロ」

「そんなこと……」


「でも、今夜俺がオーダーしたのは、篠田だから」

「あ……」

 そばに来た紘平が、軽くみのりの髪を撫でる。

 優しい手の動きに、ふと心が柔らかく動く。



「はい……お届けしました」

 妙な言い方になってしまった。

「ふ……自分を?」

 みのりが恥ずかしがっていると、紘平は楽し気に笑った。


「確かに、受け取りました」

 優しく返答した紘平は、髪から手を滑り落とす。

 そしてそのまま、みのりの腰に回した。
 

 促され、ソファに連れていかれる。
 
 自然な手つきに、勘違いしてしまいそうになる。
 
 こんなふうに自然に触れられるのは、気持ちがあるからなのでは、と。


「気を付けて。いろいろ散らばってる」

 床に広げられた資料たちを避けながら、ソファにたどり着く。

 
 手を引かれ、腰を落とした場所は紘平の前。
 
 後ろから密着され、戸惑った。