「よし……と」

 パソコンから目を離したみのりは軽く伸びをした。

 一日の業務連絡を書くのに少々時間がかかったのは、紘平が倒れた一件があったからだ。


 とにかく、大事に至らなくてよかったと改めてほっとし、業務を一通り終えたみのりは、コンシェルジュデスクを離れようとした。


 するとデスクフォンが鳴った。

「はい、コンシェルジュです」

 ルームナンバーを確認するとドキッと胸が弾む。


『俺だけど』

 紘平だった。


 スイートルームの通話ランプが点灯している。

 まるで自分の心も灯っているようだとみのりは思った。


「はい、どうされましたか」

『部屋に来てくれ』

 それだけの言葉で動揺してしまう。


「はい、何か必要なものはございますか」

 周りのスタッフに悟られないように、あくまでコンシェルジュとしての返答を繰り返す。


『仕事は終わった?』

「はい」


『なら、篠田を一晩中』

「え……」


『貸し切りで、頼む』


受話器が手から、滑り落ちそうになる。


今日最後の業務は、この上なく甘い響きだった。