「疲労ですね」


 端的に告げる医者が、カルテを埋めていく。

「睡眠も取れていないようですし、安静にしてください」

 みのりは頷いて、奥のベッドに目を向けた。

 横たわる紘平の腕には点滴が打たれている。


 運ばれて来た紘平は、まさに「落ちる」という状態で、眠りの世界に入ってしまった。

「篠田さん、紘平さんのことお願いしてもいい? 俺、スタッフに説明してこなきゃ。ボスが倒れたっつっても、仕事ストップするわけにいかないからさ」
 
 そう言って病院を去っていく司は冷静だった。

 何だかんだいっても、彼は紘平が信頼する部下の1人なのだとみのりは感じた。
 

 紘平が眠るベッドの脇にあった椅子に腰を下ろす。
 
 目の前で眠っている紘平は穏やかで、ここ数日間の仕事に対するプレッシャーが取り除かれた顔だった。
 
 
 自分が知らないほどの努力をしてきたのだと思うと、胸が苦しくなった。
 
 そういうものから、少しでも癒しを与えたい、そして助けたいと思って接して来た。
 
 もっと何かサポートできたかもしれないのに。
 
 接客業のプロとして、そして紘平を想う自分に、不甲斐なさを感じてしまう。


「先輩……」
 
 そっと紘平の手を取る。
 
 大きな手のひらを両手で包むと、体温が伝わった。