「おはよう」
 

 翌朝のホテルフロントで仕事をしていると、紘平と司がやって来た。
 
 珍しく2人そろって朝食にきたらしい。


「おはようございます」
 
 みのりが立ち上がると、紘平は笑顔を浮かべた。
 
 しかしその顔にはまだ眠気が漂っている。


「よく眠れましたか」
「全然、寝てないらしいよ」
 
 司が紘平を指差して言う。

「えっ」

「司、余計なこと言うな」

「大丈夫ですか」

 昨夜も夜遅くまでスイートのルームライトが灯っていたのを、みのりは知っている。

 プレゼンが近いせいで、紘平は遅くまで仕事をしているだろうとの予想は当たった。


「この人、本気になると、時間感覚がわからなくなるみたい」
 
 司はやれやれといった顔で言った。

「こもりきりも体によくないし、朝ごはんに誘ってみた」

「そうだったんですね」

 口はわるいが、一応部下として気遣いが司に見えた。


「あまり無理しないでくださいね」
「ああ、ありがとう」
 
 口元に笑みを浮かべてはいたけれど、答えた紘平にはどこか覇気がない。


「じゃ、朝飯行って来るね」

 司に促され、紘平もブュッフェ会場に向かう。
 


 心配そうにそれを見送って、再びみのりがデスクに着いた時だった。


「ちょ、紘平さんっ?」
 
 司の声が大きく響いた。
 

 驚いて立ち上がると、ゆっくりとフロントの床に倒れていく紘平が見えた。