「あー紘平先輩って、確かマネージャーと噂があったよね」


 紘平の同学年だったマネージャーも、みんなと同様に彼に好意寄せていると聞いていた。
 
 彼女は小柄で可愛らしい容姿で、紘平にお似合いだとみんなが噂していたのを覚えている。
 
 はっきりと公言されていたわけではないが、「お似合い」ということで、何となく2人は付き合っているのではないかと、噂が立ってた。


「でもさ、あれはあくまで噂だったじゃん」
「そうだけど……」
 
 でも本当だったら、と思うと、ますます自分が入り込んでいいものとは思えなかった。
 

 今だって、紘平には誰かがいるのではという憶測がずっと頭に張り付いている。


「噂といえば、あんたたちもあったよね」
「あんた、たち?」
「大和とみのり。ハードラーカップル、とかって言われてたじゃん」
 

 その名前を聞いて、みのりは同種目の友人を思い出した。
 
 同じクラスで、同じ種目。兄弟のように気が合って、いつもふざけてばかりいた。
 
 お互い同じハードルに向き合っていたせいもあり、いつも励まし合ったり悩みを相談し合ったりしていたのを思い出す。


「カップルって、大和はただの友達だよ」

「とは思えなえい仲の良さだったけど」

「大和は誰にでも明るく接してくるでしょ」
 
 いつもはじけるような笑顔を振りまき、部のムードメーカーだった大和を慕っていた人は多かった。
 
 いつも一緒にいたので誤解されても仕方ないが、少なくともみのりは、大和のことを恋愛感情を絡めて見ていたことはない。


 あくまで同志、そして親友だと思っていた。


「えーそうなの? でも大和の方はみのりに気が合ったと思うなぁ」

「そんなことないよ」

「そういう雰囲気出てたから、噂されてたんじゃない? 周りに」

「そんなに噂されてたの?」
 
 そういう意識がなかっただけに、噂があったことに驚きだった。


「されてたされてた、だって私、紘平先輩にも聞かれたことあるよ。大和とみのりが付き合ってるのかって」

「え?」

 思わぬ名前が出て、バケットを落としてしまいそうになる。