「お連れ様、先にお越しになってますよ」

「ありがとうございます」
 
 にこやかにマネージャーがみのりを迎える。
 
 みのりは軽く会釈をして、案内に付いて席に向かった。
 


 ホテル高層階の洋食レストラン『グリル・ド・グランド』は平日にも関わらず、一流シェフによる高級ランチ目当ての客でにぎわっていた。
 

 今日は、ここで友人とランチを取る約束だった。
 
 従業員という特権により、いい席をあてがってもらえることも魅力で、友人たちに予約を頼まれることが少なくなかった。


「みのり、久しぶり!」
 
先に到着していた大学時代の友人、成美が高層階の景色をバックに、明るい笑顔でみのりを迎えた。


「お待たせ」
「お疲れ様、忙しいんじゃないの?」
「大丈夫だよ、ピーク期はもう少し先だし」
 
 テーブルに着き、メニューを広げながら返す。
 
 やって来たウェイターに2人分のランチを頼むと、成美はまじまじのとみのりを見つめた。


「ありがとね、こんないい席」
「ふふ、これでも一生懸命働いてますから」


 高層階からの景色は、このホテルレストランの売りのひとつだ。
 
 都内のタワーが見渡せる席はいつも予約で埋まっていることが多いが、今回もみのりのコネを使って確保した。

「あのみのりが、一流ホテルのコンシェルジュだもんね」
「あの、ってどういうこと」
 
 くすくすとお互い笑いながら話を続ける。

「大学時代はそんなにポジティブな部分ばっかりじゃなかったでしょ? 陸上で怪我した時なんか、うっとおしいくらいジメジメ落ちてたなんて、今や信じられないよね」

「うっとおしいって、ひどい」