「やっぱ、わっかりやす」

 司は体を離すと、目を細めた。
 

 この人は人の気持ちを揺すぶるのが好きなのだ、みのりは思った。
 
 言い当てられて、言葉に詰まる。


「大丈夫、誰にも言わないから」
 
 微笑を浮かべて言う。


「もちろん、ユリナさんにも」
「え……」
「じゃ俺も朝食行って来るね」
 
 司は軽やかにその場を去っていく。



『ユリナさん』その名前を聞いて、みのりは固まった。
 
 誰のことなのか、また聞きそびれてしまったけれど。
 
 紘平に関係する女性で、しかも、今の言い方だと、やはり特別に使い存在なのだと感じた。
 
 自分と紘平の密会を、内緒にしておかなければならない相手。
 

 それは、つまり……。
 

 紘平の薬指に光る指輪のことを思い出す。
 
 
 先輩。奥さんがいるんですか?
 
 ぎゅっと心の奥を掴まれる気がした。
 
 聞きたいけど、聞けない。
 
 正直なところは怖くて、聞きたくない。
 


 またこの感じ……。
 
 曖昧なままでいいと思っていたはずなのに、心の一部にもやがかかっていく。
 
 あの時も聞けなかった……。