その後ろ姿に見とれていると、ホテルスタッフたちが小走りにみのりの元へやってきた。

「チーフ、今のどういうことですか?」
「どうして伊崎紘平が先輩のスカーフを持ってるんです?」 

「えーと……」

 詰め寄る同僚たちに、適当な言い訳を探していると、



「あ、相沢さま」

 司が眠たげにエレベーターから降りてくる。

「今日もかっこいい~」

 スタッフたちはあっという間に、司の方へと惹きつけられるように行ってしまった。
 

 助かった、とみのりは深呼吸をして気持ちを整える。
 
 
 目の前に置かれたスカーフを手に取り、再び昨夜のことを思う。
 
 これを届けに下まで降りて来てくれた紘平の気遣いが嬉しかった。
 

 何となく、こちらのスカーフを付けていたくて、巻いていたものを解き、結び直した。
 
 これを見るたびに、紘平のことを思い出せるし、仕事も頑張れそうな気がした。
 
 スカーフの形を整えていると、


「そっちの色の方が似合ってるね」
「え?」
 
 頭を上げると、今度は司がみのりの元へやってきた。
 
 口にする言葉はどこか意地悪なのに、相変わらず見た目は爽やかで女子の視線をさらった。


「そっちの色の方が好きなの? わざわざ付け替えるとか」
  
 目敏く見ていたらしい。
 
 司の目に楽し気な色が混じる。
 
 またからかわれる、とみのりは返答に困った。


「俺の協力なんかいらないみたいだね」

「どういうことですか?」
 
 すると司は体を乗り出して、みのりの耳元に唇を寄せた。
 
 その近さにドキッとしていると、


「そのスカーフ、今朝、伊崎さんの部屋に行った時、見たから」

 そう囁く司の瞳が、さらに悪戯になる。

「あ……」
 
 反射的に顔が熱くなった。
 
 
 つまり紘平の部屋にいたこと。
 
 そしてスカーフを解かれるようなことがあったことを司は見抜いている。