「おはようございます」


 翌朝、コンシェルジュデスクに1人の客がやってきた。
 
 男はスーツケースを床に置き、みのりに英語で話しかける。
 
 日本に出張中のビジネスマンだった。
 
 ホテル周辺のレストランについて聞きたいとのことで、みのりは英語で案内を始める。

「サンキュー」
 
 男性は笑顔を浮かべ、その場を離れた。
 
 みのりはそれを和やかに見送り一息つく。
 
 そしてパソコンに向かい今日の宿泊状況を確認した。
 

 ふとスイートルームの表示に手が止まる。
 
 昨夜の出来事が頭をよぎった。
 
 あのキスは夢だったのだろうか。
 
 そのくらい現実味をおびていない時間だった。
 

 抱き締められ、キスをして。
 
 言葉少なに想いを告げられた。
 

 2人で少しゆっくりした後、この後も寝ずに仕事をしなければならないと、紘平はみのりに礼を言い帰した。
 

 夜が明けてみのりの頭の中は、まだ少しぼんやりしていた。
 

 この関係性がわからない。
 
 わからないのに、幸せだと感じることが不思議だ。

 紘平の心に自分があるとわかり、みのりはそれで充分だと思った。
 

 曖昧でいい。
 
 もちろん、聞きたいことは山ほどある。
 
 自分の立ち位置、そして彼の指に光る指輪の意味。
 

 そしてこの先、自分は紘平にどう接したらいいのか……。