「何かホテルに不備でもありましたか」



 いつもと違う環境というのは仕方ないけれど、滞在中はお客様には最高のおもてなしと寛ぎを提供したい。

「何かお手伝いできることがあれば、すぐに用意しますし……」


 そこまで言いかけた時、紘平の手が伸びてきて、みのりの頬を撫でた。


「……っ」

 急なことに驚いていると、

「不備って言うか……不意っていうか……」

 囁くように紘平は言う。

 言いながら、じっとみのりを見つめる。


「不意……ですか?」


 いつもと勝手がちがうから。

 それは環境のことではなく……自分に関係があったりするのだろうか。


 紘平の言葉には、すべて裏の意味があるようで、みのりは必死で考える。


 不意に、何かがあった。


 その言葉の答えを明かさぬまま、紘平はグラスを片手に夜景を眺めた。

 グラスが傾くと、氷の音が部屋に響く。


 静かで、夜景の渦とは別世界の空間。


 そんな中に2人きり。


 こんな状況が前にもあった、と頭をかすめる。



「星が見えないな」

「……そうですね」


「あの時は、あんなにあったのに」


 言われて気が付いた。


 あの合宿の日の夜と同じだ、と。