真正面から見つめられ、息が止まりそうになる。
 
 暗闇でみのりを見つめる紘平の視線には、熱が帯びている。
 

 目眩がする。抗えない。
 
 こんなに近くで彼を見つめたことがない。
 
 長いまつ毛、形のよい鼻筋、すべてが初めてで、すべてが魅力的だった。


「それとも、働き者の後輩のために、待った方が、いい?」
 
 しかし、クローゼットに手を付いた紘平は、みのりを逃がす気はないらしい。
 

 その言葉と行動が、これ以上待てないというようで、みのりの心が疼いた。
 

 ずるい。
 
 この先の動向を、優しく選ばせている。


「……」
 

 みのりは緩く首を振る。
 
 すると、紘平の手がゆっくりとみのりの首筋に触れた。
 
 
 そして滑らかに、制服のスカーフを抜いていく。
 
 首元の締め付けがなくなると、みのりの心もいくらか解かれた。
 

 コンシェルジュではなく、目の前の紘平に惹かれる、ひとりの女性となっていくような。



「仕事、お疲れさま」
 
 
 優しい声が、みのりに魔法をかける。


 
 スカーフが床に落ち、同時に静かに唇が重なった。