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「今まで、いろんなところに泊まったけど、ここのスイートの夜景が一番いい」
眼下には眩い夜景。
目の前には、この街を象徴するタワーの光を独り占めできた。
選ばれた人間だけが見ることが出来る景色だと、みのりはそう思っている。
そんな輝きを見てそう囁く紘平は、今までとは別人だった。
酔っているせいもあるのかもしれない。
手を引いたまま、みのりをスイートルームに連れて来た紘平からは大人の色香が漂っていた。
いくら勤務時間が終わったとはいえ、制服のまま客室に入り2人きりになるなんて、と頭の隅で罪悪感が行き来する。
ジャケットを脱いだ紘平を見て、そばに行き受け取った。
長年の習慣からか、すぐに掛けなければと自然と動いていた。
部屋のつくりはわかっている。
クローゼットに向かい、ハンガーを手に取っていると。
「気が利くんだな」
突然、耳元で声がしたかと思うと、背後から抱きしめられていた。
「せ、先輩……っ」
驚きのあまり、ハンガーごとジャケットを落としてしまう。
「あ、あの……」
紘平の逞しい腕が、自分の首に巻き付く。
背中に彼の胸が当たり、体温を感じると、一気に呼吸が乱れた。
「掛けないと……」
状況が飲み込めず、そう返すのが精いっぱいだった。
「そんなのいい」
「でも……」
くるりと向きを変えられて、クローゼットに背中を押し当てられる。
「もう、勤務時間は終わったんだろ」

