「社長も、先代がああいうお亡くなり方をして、言わば“急に”社長の座を継がれた。
その時に塩見様が傍にいてくれた事が大きかったのですが、
浅村さんはあまりその辺りを理解されていませんからね。」
「え・・・・。
“ああいうお亡くなり方”というのは・・?」
「・・あ、社長から聞いていませんか?」
奥さんやお嬢さんの話は聞いていたけど、先代・・お父さんの話までは聞いていなかった。
「先代のシンタロウ様は釣りが趣味で、
休みの日になると、奥方様・・つまりエイジ社長のお母様とよくご夫婦で釣りに行っておられました。
そんな中、エイジ社長が38歳の時、
乗っていた釣り船が海で転覆する事故が起き・・・お二人とも帰らぬ人に。」
社長が38歳の時・・?
確か奥さんが自殺未遂をしたのは36歳の時って言ってたよな・・。
佐竹さんは少し下にずれた眼鏡をくいっと上げる。
「悪いことは重なってしまうものなんですね・・・。
奥様の件から少しずつ前向きになられていた矢先に、今度はお父様とお母様まで。」
「社長・・お辛かったでしょうね・・。」
「社長が持ち堪えられたのは、ノゾミお嬢様の存在があったからです。
その名の通り、お嬢様は社長にとって希望ですから。」



