その男は、固く扉を閉ざす。







欲しい……欲しい……


風呂でシャワーを浴びているとき、左足首を何かに掴まれた。

それは、白くなめらかな肌を持つ女の手だった。

濡れた真っ赤なマニキュアが蛍光灯に照らされて笑っているように見えるそれは、排水口の中から飛び出していた。


足をとられそうになりながらもなんとか風呂から逃げ出した。

慌てて洋服を体に巻き付けていると、ティーシャツの袖から腕がのびた。

まだ袖に腕を通していないはずなのに……


欲しいわ~ちょうだあい……


ティーシャツを放り投げて側にあったタオルを巻き付けて外に飛び出そうとした。


はあ…あなたが欲しいの……


玄関のドアの覗き穴から細長い指が一本突き出た。


欲しい…欲しい……どおしても欲しいのお……


気付けば家の穴という穴すべてから、女性の手が飛び出ていた。

蛇口、
コンセントの穴、
ヤカン、
ペットボトル、
ジーパン、
きっと便器からも……


ドアを蹴って外へ転がるように逃げた。