「ねえ、そういえばバイト増やしたんだって?」


カウンターに寄りかかって、澪は思い出したように訊いた。


「誰からの情報?」

「奈美。たまたま街歩いてたら、路上でヨネがチラシ配りしてたって言ってたよ」


チラシ配りと聞いて、もしやいかがわしいものと澪は勝手に想像したが、奈美がヨネから受け取ったのはなんてことないコンタクトレンズの会社のチラシだった。


「おれ、派遣のバイトにも申し込んだんだ。チラシ配りもその中の一つ」


手際よく煙草の整理を続けるヨネの腕はうっすらと日に焼けていた。


「そんなにお金に困ってるの?」

「いや、単なる小遣い稼ぎってとこ」

「ふうん」


するとヨネは手を止めて、ふっと柔らかな笑顔を浮かべた。


「正直何かしてないと落ち着かないんだよな。家で休んでても、つい考え事ばかりしてさ。バイトしてる時だけは無心でいられるから」


考え事って先生のことなのだろうか、と澪は思った。

もっとも聞かなくても分かっていたから、口には出さなかったけれど。