澪はある疑惑が頭の中に浮かんで手のひらに汗が滲み出た。
まさかとは思うが、どうか嘘であってほしいと願った。
「恭介。もしかしてあの男」
「もう帰れよ」恭介は澪の言葉を遮った。
「でも」
「秋谷ならなんとか連れて帰るから。
とにかくきょうは帰れ」
何度も何度も聞いたその言葉はいい加減に聞き飽きて、全身がかっと熱くなった。
「本当のこと言いなよ。あの男の様子じゃ奈美がとても無事だと思えない。
本当は学校に来れないのはまた殴られたからなんでしょ」
「キョウ、本当のこと言えよ」
恭介は黙ったままどこかを一心に見つめていた。それからゆっくりと重い口を開き、やっと出たその言葉は変わることはなかった。
「もう帰れ」
たったその一言だけ。
「帰れ」
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