「弱い者しか手上げないって最低っすね」


そう言って、ヨネは健二の手を振り払った。

健二はわなわなと唇を震わしながらヨネを睨みつけた。その目は鋭く、ピリピリとした雰囲気が流れる。

一瞬でも動いたら、乱闘でも起きかねない。

その時だった。


「健二先輩」


最初はこの騒ぎを聞いた店員だと思った。だけどその声は聞き慣れたものだった。


「やっと来たか。こいつらおまえの連れだろ。きゃあきゃあ騒いでうざってえったらありゃしねえ」

「すいません。すぐ連れて帰りますんで」


健二に頭を下げて謝ったのは恭介だった。

なんでここに。


「おれは忙しいんだ。とっととこいつら連れ出してくれ」


そういえば、澪はさっき健二が携帯電話を触っていたのを思い出した。きっとあの時に恭介を呼び出したに違いない。


「キョウ。なんでおまえが謝るんだよ。謝るのはこいつだろ」


ガタン、と椅子から勢いよくヨネは立ち上がった。

すると恭介はゆっくりと顔を上げ、ヨネの胸ぐらを掴んだ。突然のことにヨネの体はよろめいた。


「いいからもう帰れ。
勝手に先輩を呼び出すような真似して。
言ったろ?これは秋谷と先輩の問題なんだ。
おまえらは関係ねえ」


向かいで健二という男がにやにやと憎たらしい笑みを浮かべていた。それは恭介がよく見せる笑い方とよく似ていた。

ばかみたいだ。

こんな男にペコペコ頭下げて。

恭介はばかだ。