「おれらは奈美と友達です。その友達が殴られているなんて黙ってられません」

「あっそう」


まだ話の途中にも関わらず、健二は折りたたみ式の携帯電話を開いた。カチカチと音を慣らしながら彼は画面から目を離さない。


「ちょっと聞いてんすか?」

「んー」

「もう奈美には会わないで下さい」

「ふうん」


返ってくるのは曖昧な返事ばかりだった。

健二は人の話を全く聞いていなかった。

店内は雑踏の音で騒がしいはずなのに、澪の耳には男の携帯電話のボタンを押す音だけがやけに響いた。

この男。





──ダンッ。


「いっ、痛えええっ」


健二の叫び声が店内にこだまする。

隣の席にいたOLさんらしき女性が怪訝な表情でこちらを見たが、澪は人の目など気にせず大声で叫んだ。


「あんた、奈美の気持ち少しでも考えたことあるの?」


そしてまた澪は健二の足を踏みつける。もちろんミュールのかかとの先で強く踏んでやった。


「んだ、てめえ」


逆上した健二が手を上げた。

殴られる。

そう思った時、すぐにヨネが健二の拳を止めてくれた。