放り出そうとしたスマホが瞬間鳴り響く。
それは着信を知らせるもので。



「だ、誰…」



スマホを引き寄せ画面を確認する。
そこに表示された名前を見て、一瞬で後悔した。

一瞬で惹き戻されたように心臓を鷲掴みにされたような。
息苦しさを感じて。



“中野”



煩い着信音が頭に響いてくる。
ドクン、ドクン、と心臓が響く。
冷や汗が……。


出たく、ない。
出たくない、だけど、出なかったら…。



俺は弱い。
弱い俺が現実。



「…しもし…」



あの頃の俺に、結局引き戻される。





――あ、海老名か?おい、海老名だろ!久しぶりだなあ!



癇に障るバカっぽい声が受話器越しに聞こえる。
変わらないその声が、嫌でもあの頃を思い出させて。