・・・・・
二時間ほど、私たちはイタリアンを楽しんだ。私は先輩らしく振る舞おうと思っていたが、結局桜田くんと一緒になって染谷くんの話を聞いてばかり。
私には一生かかっても経験できないであろう大きな取り引きの話や、外出先で起こったハプニングなど、聞いている側も一緒になってドキドキハラハラさせられてしまうほど引き込まれた。
「今日は楽しかったね!」
桜田くんと別れた後、染谷くんはいつものように私を家まで送ると申し出た。この時の染谷くんは、絶対に意思を曲げない。
申し訳無いと思いつつも、まだしばらく一緒にいられる嬉しさと、ほろ酔いでふわふわ浮かれている気分が混ざった状態の私は、上機嫌で声をかけた。
「……そうだね」
隣を歩く染谷くんの表情は街灯の光からは外れていてよく見えなかったけれど、いつもより、先ほどのお店での会合より、明らかに声のトーンが低い。
「染谷くん? どうしたの?」
最寄り駅で電車を降り、私の住むアパートまではもう少しというところまでたどり着いている。少しずつ明かりが減り、道行く人もまばらになっていた。
酔っていて大胆になっているのかもしれない。私は思わず染谷くんの前に回り込むと、進路を塞いでいた。見上げれば、一瞬驚いた顔。
「別に、どうもしてないよ」
口ではそう言うものの、明らかに不機嫌に見える彼を不思議に思った。先ほどまであんなに楽しそうに食事をしていたはずだというのに一体どうしたのだろう。
「でも、怒ってるよね? ごめん、私が何かしたならーー」
「松井」
染谷くんは強引に遮るが、続きの言葉はない。目を反らしたまましばらく黙り込んだ彼を待っていると、はあ、と短いため息の後に髪の毛をくしゃりとかきあげた。
ちら、と視線が一瞬私へ移ったが何も言わず歩き始めた。私もすぐに追いかけて、いつもより速いペースの染谷くんに合わせて隣を歩く。
そのまま二人、しばらく無言のまま歩き続けた。
そうして私のアパートの前にたどり着いた時、ようやく染谷くんは口を開いた。
「……他の男と二人の時は、あの店に行ったら駄目だから」
「えっ? どうして?」
予想もしていなかったことを告げられ、驚いた。染谷くんは私の反応に驚いたようで、お互いに瞬きの回数が増える。
「どうしてって……あの雰囲気見て分かっただろ?」
「お洒落な感じの? そう言えば後ろの個室で女子会やってたね!」
「……」
二時間ほど、私たちはイタリアンを楽しんだ。私は先輩らしく振る舞おうと思っていたが、結局桜田くんと一緒になって染谷くんの話を聞いてばかり。
私には一生かかっても経験できないであろう大きな取り引きの話や、外出先で起こったハプニングなど、聞いている側も一緒になってドキドキハラハラさせられてしまうほど引き込まれた。
「今日は楽しかったね!」
桜田くんと別れた後、染谷くんはいつものように私を家まで送ると申し出た。この時の染谷くんは、絶対に意思を曲げない。
申し訳無いと思いつつも、まだしばらく一緒にいられる嬉しさと、ほろ酔いでふわふわ浮かれている気分が混ざった状態の私は、上機嫌で声をかけた。
「……そうだね」
隣を歩く染谷くんの表情は街灯の光からは外れていてよく見えなかったけれど、いつもより、先ほどのお店での会合より、明らかに声のトーンが低い。
「染谷くん? どうしたの?」
最寄り駅で電車を降り、私の住むアパートまではもう少しというところまでたどり着いている。少しずつ明かりが減り、道行く人もまばらになっていた。
酔っていて大胆になっているのかもしれない。私は思わず染谷くんの前に回り込むと、進路を塞いでいた。見上げれば、一瞬驚いた顔。
「別に、どうもしてないよ」
口ではそう言うものの、明らかに不機嫌に見える彼を不思議に思った。先ほどまであんなに楽しそうに食事をしていたはずだというのに一体どうしたのだろう。
「でも、怒ってるよね? ごめん、私が何かしたならーー」
「松井」
染谷くんは強引に遮るが、続きの言葉はない。目を反らしたまましばらく黙り込んだ彼を待っていると、はあ、と短いため息の後に髪の毛をくしゃりとかきあげた。
ちら、と視線が一瞬私へ移ったが何も言わず歩き始めた。私もすぐに追いかけて、いつもより速いペースの染谷くんに合わせて隣を歩く。
そのまま二人、しばらく無言のまま歩き続けた。
そうして私のアパートの前にたどり着いた時、ようやく染谷くんは口を開いた。
「……他の男と二人の時は、あの店に行ったら駄目だから」
「えっ? どうして?」
予想もしていなかったことを告げられ、驚いた。染谷くんは私の反応に驚いたようで、お互いに瞬きの回数が増える。
「どうしてって……あの雰囲気見て分かっただろ?」
「お洒落な感じの? そう言えば後ろの個室で女子会やってたね!」
「……」


