クールビズという言葉はすっかり世の中に定着し、今や社会の一般常識。
期間は地域や業種によりまちまちのようだが、梅雨に入りかけたばかりのこの界隈ではすっかりノージャケット・ノーネクタイの会社員だらけになっていた。

そんな私も、この時期は勿論上着を着るのはお休み中。事務員には上下紺色の制服が支給されているのだが、夏場はジャケットをロッカーに入れたままだ。白いブラウスの上にリボンが付いたベストを着るスタイルは、落ち着いた中に爽やかさも感じられて結構気に入っている。

実は、私が上着を脱いでいるのは〝クールビズ期間だから〟という理由だけではない。


「今年こそ、エアコン直してくださいね」


ゴウンゴウン、と相変わらず大きな音を鳴らすエアコンを見上げ、少し離れた自席に着いている桧山所長へ声をかけた。


「んん? 北村ちゃん、何か言った?」

「き、聞こえてない……」


がっくりと肩を落とす私を見て、不思議そうに首を傾げる所長。いつもにこにこ優しい笑顔を見ているとそれ以上無理にお願いする気にもなれず、首を振る。


「何でもないです……」


私の勤める高城株式会社の営業事務所は、ご覧の通りエアコンが壊れている。
この怪しげな音が静かな所内に響くと、何となく落ち着かない。

今日の分の伝票整理が終わってひと息つきながら、私はエアコンの修理について頭を巡らせた。