そんな夢見心地の私を現実に引き戻したのは、小林さんが何気なく呟いた爆弾発言だった。


「宿の温泉も楽しみだな」

「えっ?」


確かに小林さんは温泉好きそうだけれど、言っている意味が分からない。驚いた私の反応を見て、小林さんは不思議そうだ。


「あの、何の話ですか?」

「何って……今日、泊まりだろ?」

「泊まり?!」


どこかで聞いたことのあるデジャヴのようなフレーズに、冷や汗が止まらない。
お互いしばらく無言で見つめ合った後、意味を理解した小林さんは静かに口を開いた。


「おい、嘘だろ……」


完全に言い訳になってしまうが、私は本当に疲れていたのだ。楽しみにしていたデートの、肝心のプランを全く覚えていないほど。
せっかく小林さんが、一生懸命考えてくれたのに。

慌てて携帯電話での過去のやり取りを確認すると、私側から〝了解〟と書かれたペンギンのスタンプがしっかりと押されていた。
……当の本人は全く覚えていないけれど。

がっくりと肩を落とす私の頭に、先ほどまで繋がれていた手がぽんと触れる。


「重ね重ねすみません……」

「ひとりで突っ走るのも時には悪くないけど、浅見は張り切り過ぎるからな。……俺にはもっと甘えていいから」