「ライナ、顔をよく見せてください」


戸を開ける直前に時々イルミスが行う、頬に手を添えて、刻み付けるように見つめられるこの時間は、決して不快ではない。
不快ではないのだが……。


「あああの、恥ずかしい、です……」


この時間は、耐え切れなくなったライナが根を上げるまで続くのだ。


「すみません、今の貴女を忘れたくなくて」


熟した果実のように真っ赤に顔を染める妻を、イルミスの碧い目はしばしの間愛しそうに眺めた。


「では、行ってきます」

「いってらっしゃ……あ! イルミスさん」


ライナは慌てて、出て行こうとするイルミスの腕を掴んで引き留める。彼はいつもと違う様子のライナに驚いて振り返った。


「どうしました?」

「あの、襟が少し曲がっているようです」


イルミスが着ているのは、騎士団の制服だ。紺色の詰襟が、少し気になる程度に傾いている。
ライナはちょいとかかとを上げて、イルミスの首元に触れた。


「直しますね」

「ありがとう」


そうして、今度こそ無事に見送ったのだった。