ライナが朝食用に作った出来立てのスープをひとさじ口へ運んで味を確認していると、後方から物音が聞こえた。
振り返ると、先ほどまで規則正しい寝息を立てていたイルミスがやってきたところだった。


「おはようございます」

「おはよう、ライナ」


一日の始まりに微笑んで交わす挨拶は、二人のささやかな日課だ。
ある程度身支度を整えているとは言え、自分の前だけで見せる少し気の抜けた夫の様子に、ライナは自然と笑みが零れていた。


「まだ眠たそうですね」


席に着いたイルミスの前に、ライナは二つの木皿を運ぶ。先ほど花に水をやるついでに収穫したばかりの野菜と昨日購入した薄切りの肉をたっぷり挟んだパンを乗せた皿と、薄めに味付けしたスープを入れた皿。どちらも朝にぴったりの食事だ。


「ええ……最近事務処理が多くて……」


珍しく欠伸をかみ殺した様子の彼に、ライナは目を見張った。
ここのところ連日帰りが遅いので、大分疲れがたまっているようだ。
何でもそつなくこなしているようでいて、その裏では血の滲むような努力を重ねているのだろう。