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「松井さん、昨日はすみませんでした! しかも奢って貰っちゃって……」


翌日出社した私を待っていたのは、威勢良く謝罪をする桜田くんだった。シュンとうなだれるその姿がかわいらしく見えて、くすりと笑いが漏れる。


「先輩からの歓迎だと思って、気にしないでね。昨日はおいしかったね」


昨夜の食事代は私と染谷くんとで折半したので、桜田くんからは貰わなかったのだ。最初染谷くんがほとんど支払おうと動いたため、それを止めるのに時間がかかってしまった。桜田くんには、その漫才のようなやり取りを見られて気恥ずかしかったことを思い出す。


「はい。……あの、やっぱり染谷さん、すごい人でした。やっぱり俺じゃ、敵わないです」

「桜田くんはまだ入ったばかりだし、これからの成長が楽しみだよ!」


染谷くんの完璧ぶりに当てられてしまったのか、桜田くんはかなり落ち込んでいるようだ。そこまで気落ちするほどの話題はなかったはずなのに、と私は慌ててフォローする。


「あー、はい、そうですね……。松井さん、俺、きっといつか追いついてみせます。染谷さんには思いっきり牽制されちゃいましたが、まだ諦めてません」

「すごい気合いだね。応援してるから!……って、牽制って……何の話?」


何だか嫌な予感がする。背中に冷たいものを感じながら、私は震える声で尋ねた。


「〝松井は渡さないから〟って、松井さんがトイレに行った時に。
……あーやっぱり格好いいですよね! 染谷さん」

「……」


〝酔うと正直になる〟
確かに昨夜、そんな会話をしたような気はするが……。
私は染谷くんの、知られざる一面を垣間見た気がした。

そんなことを言って貰えてすごく嬉しい。嬉しいのだけど……。


「桜田くん、お願いだから同期飲みで言わないで!」

「あー、それは約束できないっすねー」


ーーしばらくの間、私が火を消すことに躍起になることは容易に想像できてしまった。



終わり