「どうかしたんですか? 先輩」
「いや……何でもないよ。それより、そっちはどうだい?」
「意味が分からないです、これ」

 半ベソで俺を見つめる律子ちゃんは手に持った紙を俺に見せているが、そこにはびっしりとローマ字が書かれていた。

 『ICHIMSAMMA』『NISYOJUM』……と、それ以降も頑張って書いたらしく、疲れた手を振っていた。

「ご苦労さん。少し休んでいいよ」
「は、はい……ふう」

 小さく息を吐いてテーブルに突っ伏した律子ちゃんに、俺は冷蔵庫まで行って中から麦茶のボトルを取り出し、シンクに置かれていたコップと一緒に手渡した。

「さて、困った。ヒントを解読するには少々厄介な事になってきた」
「そう、なんですか? 私はもう疲れましたよ……これって、何の意味があるんでしょうかね」

 律子ちゃんの言うのも分かるが、この事態に”あいつ”が関与している事はほぼ確実だろう。これほど手の込んだ事を副生徒会長一人でするには無理があるし、第一あの人の頭では不可能な事だ。

「……先輩、どうしたんですか?」
「ん? いや、何でもないよ」
「そうですか。でも、何だか難しい顔をしてますよ? あ、あの……私では力にはなれないかも知れませんけど」

 必死になって身体を乗り出してくる律子ちゃんの迫力に圧倒されてしまった。

「ありがとう。多分、ここのパスワードを考えたのは……あいつだ」
「あいつって……誰ですか?」

 俺が渋るのを見てただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、息を飲む律子ちゃんは居住まいを正して座り直していた。


 ……まあ、話しても問題ないか。


 俺は小さく息を吸い込み――
「妹だよ」
 ゆっくりと言葉として吐き出していった。