「とりあえず…………ママッキーさん、白衣の下に服を着てください」
「おっ……これは失礼。さっきアレの実験で失敗して、バイオハザードが起こったからシャワーで洗い流したまま白衣を着たのをすっかり忘れていたさね」

 恥かしさを微塵も感じさせないママッキーさんは表情一つ変えず、俺の顔を一度見て普通に脱いだ白衣を眺めていた。


 これでは返って俺の方が恥かしいのですが、これは新手の羞恥攻めでしょうか?

 などと思っていたら「だ、だめですよっ」と律子ちゃんが一人慌ててママッキーさんの周りをハエのように飛んでいた。


 ……例えが失礼か。


 せめてチョウチョくらいかいいのかな?

 可愛いし、綺麗だし。それにしても相変わらずのネーミングセンスだな……『ミラクルホワイトローブ』って、どうよ?

 それに先ほどから言っている『アレの実験』というのは気になるが和音さんの名前も出ていたし、やばい事でない事を祈ろう。

「それより、ママッキーさん」
「んっ? 何かな」
「先ほどの発言で『バイオハザード』って言ってましたけど、聞き違いではありませんよね?」
「ああ、うん」

 塩ラーメンの如くあっさりと事実を認めたママッキーさん。

「佐々木研究所――あっ、佐々木研究所って言うのは『機械工学研究開発応援部』の部室の事ね。そこで未知の生命体を研究実験中にオスの生命体『ワアイ』がメスの生命体『ウエイ』と接触結合して増殖し始めて、部室の中がたいへんな事になってしまってね」
「……大丈夫なんですか、それ? と、言うか、分からない単語が多過ぎです」
「まあ、部室は完全封鎖して中からはアリ一匹どころかダニやミジンコすら出る事は出来ないようになってるから問題なし。密閉している空間で外部に被害が少ないから、そろそろミサイルが――」

 と、ママッキーさんが言っている端から足元を激しく揺らす衝撃が駆け抜けていった。