「あだっ、あだだだっ……痛い、痛いよっ、ともちゃーんっ」
「遺体になって霊安室に行きますか? 涼しくて気持ちいいと思いますよ」
「ナ、ナイスアイディアだけど、いたたっ……それは遠慮しますですっ」

 俺を拝むように手を合わせた部長は今にも泣きそうな声で懇願してきたので、少しだけ力を入れてアイアンクローを解いた。まあ、離す間際に『めぎっ』って絶対に聞こえてはいけない音がしたのは内緒にしておこう。

「ああっ、桜井先輩全部食べちゃダメですよお」
「ん? ふぐ……誰も食べないからいいじゃん」

 そんな会話が近くで繰り広げられ、鉄鍋を抱え込んでいる和音さんは本当においしそうに食べていた。

「なんだ、智樹。やっぱり食べたかったのか?」
「いりません。どうぞ、全部食べてください」

 俺の視線に気付いた和音さんは鉄鍋に目を落とし、もう一度俺を見て――
「まあ、そう言わずに一口どうだ? もうちょっと辛い方がおいしいと思うが、これはこれでおいしいぞ」
 レンゲに山盛り赤黒い物体を載せて差し出して来た。

 その物体は食べ物というより危険物と化しているようで、レンゲの上で小さく核分裂を繰り返すようにポコポコと泡を噴き上げていた。

「いえ……謹んで遠慮します」
「そっか、おいしいのに」

 それを普通に口に運んで咀嚼する和音さんを見ていたら、頭と胃がおかしくなってきた。


 ……化け物だ。


 今日の収穫は和音さんは溶鉱炉並の『鋼鉄の胃』をしているって事だった。