この人の奇行は今に始まった事ではないが、今日のは飛び抜けてすごい。普通、服を着たままプールに飛び込む馬鹿はいないだろう。濡れれば身体に纏わりつき下手をすれば溺れてしまう危険性があるのに、それすら省(かえり)みずにするとは本当の馬鹿としか言いようがない。

「馬鹿につける薬はないと言いますが本当ですね。馬鹿でもアホでもなんでもいいですから、これ以上面倒事を増やさないでください」
「はい……すいません」
「分かればよろしいです。では、部長は着替えてきてください」

 とりあえず、廊下をこれ以上水浸しにするのは気が引けるので着替えてきてもらおう。目の前でくしゃみ連発されて、あまつさえ風邪でも引かれでもしたら、たまったものではない。

「うう……ともちゃんも一緒に行こうよ。濡れてるから着替えるの手伝って欲しいなあ」
「棺桶と更衣室、どっちに入りたいですか?」

 拳を握りしめ、部長の前でちらつかせると「更衣室です」と敬礼をして一目散に走って行ってしまった。

「それじゃ、俺達は部室に戻るとしますか……って、律子ちゃん?」

 今のやり取りを呆然と見ていた律子ちゃんも、何故か俺に敬礼して涙目で震えながら「私も更衣室がいいれす」と震えていた。