「とりあえず、和音さんからの伝言をお伝えします」
「和音様の?」
「はい。『大至急、激辛ハバネルネルカレーパンを作って』という事です」
「な、なんですって!」

 何故かカレーパンスターは驚いて数歩後退(あとずさ)り、同じくカレーパン職人(ここでは部員はそう呼ぶらしい)達に伝染して俄かに騒がしくなっていた。大体、これのどこが潜入調査なのだろうか? 思いっきり正面から入って普通に「カレーパンを作ってくれ」と言っているのと同じなのだが。

「ううっ……和音様のご命令でもそれは出来ません」
「どうしてですか?」
「ないんです……もう、作れないんですよっ」

 泣き崩れたカレーパンスターが俺を見上げて――
「唐辛子が目にしみるから」
 微妙な事を言って倒れた。

 そして一斉に駆け寄ってくるカレーパン嗜好会の職人達が励まし、カレーパンスターは「ありがとう」と一言残して目を閉じていった。


 ……面倒だな。


 この先の展開までついていく自信と暇がないので、ここで退散した方が被害も少なくていいだろう。これ以上学園青春ドラマに付き合う気もないし、早く着替えたいし。


そんなわけで、徒労に終わったカレーパン嗜好会への潜入調査を終え、重い足を引きずって部室に帰っている俺の視界にこれまた面倒な人物が入り込んできた。

「ちゃお、智美ちゃん」
「消えてください、部長」

 現れたのは妖しげな笑みを浮かべた変態部長が、俺の身体を舐めますように観察していた。

「やっぱり似合ってるよね」
「さっきも同じ事言ってましたよ。それよりも、その格好はなんですか?」

 俺の格好について感想を述べる前に、俺としては部長が着ている服について考察したい気分だった。

「何って、白馬の王子様」
「白馬の王子様って言うより、白身の玉子様って感じですよ」

 顔を丁寧に黄色く塗って全身を真っ白なシーツで包んだ部長は見た目が目玉焼きのようになっていた。


 ……真正の馬鹿だな。


 本人は楽しそうにやっているようだが、これが学園一モテる男の姿なのだろうか? まあ、何でもするのが今のモテる要素の一つかも知れない。