「俺には関係ないので、ここで――」
「どこに行くんだい? 智美」
立ち上がろうとした俺に向かって何か飛んできたので寸前のところで避けた。
しかし、今通り過ぎていった銀色に輝く物体はなんだったのでしょうか? そう思い、恐る恐るうしろを振り向いて見ると、壁に突き刺さっている包丁があった。
……殺す気かよ、この人は。
壁に突き刺さった包丁が窓から差し込む日の光を受けてきれいに輝いているが、その斜め下で腰を抜かして蹲っている人の姿もある。
「ぼ、僕が何かしたのっ?」
「なんだ、海藤か? ……あっ、もしかしてカレーパン食べたのはお前かっ」
部室の入り口で蹲る部長を見下ろして舌打ちをした和音さんだったが、いきなり声を荒げて二本目の包丁を部長に向けて突きつけていた。
「え? えっ……な、何の事だよ」
「とぼけるんじゃないよ! 私のカレーパン食べただろっ」
「知らないって。今来たばかりなんだから」
すでに部長を犯人と決め付けて話を進める和音さんの目は血走り、恐怖で怯える部長は「お許しを、お代官様っ」と土下座をしていた。
完全に理性を失っている和音さんは部長を刺しそうな勢いなのでひとまず包丁を置いてもらうように説得をしようと思うのだが、近づくと俺が刺されそうなのでここで説得するしかない。
だが、話を聞いてくれそうな雰囲気はまったくないので諦めて部長の尊い犠牲を待つとしますか。
「ちょ、ちょっと! ともちゃん、僕を見捨てようとしてるでしょっ」
「はい」
「うわっ、気持ちいいくらい潔い返事だけど助けてよーっ」
スパッと言い切った俺を涙目で見つめる部長は気持ち悪いので助ける気が失せてしまった。