「これはマトリクサーキットに取り込んでいたリッコ―の映像を投影しているところだよ。マトリクサーキットは左右から挟む形で近くに人が通るとその人物をスキャンして投影するシステムになっているのだけど、まだ実験段階だから取り込む事が出来なくて、あらかじめ電脳革命クラブの面々を取り込んでおいたから、和音ママに実験の手伝いをお願いをしに行っている間に作動したわけさね」
「……つまり、律子ちゃんが近くを通ったから反応して映像が出たって事ですか?」
「ピンポンッ、さすがはトモキン。まだ未完成だから精度が低くて動く事が出来ないから立っているだけなんだけど、本来はあの装置の前を和音ママに通ってもらう予定だったのさね。そのあとはトモキンにもお願いしようと思ったけど」
何やら面倒な事を言っているがマトリクサーキットは正常に機能していたようで、そこに関しては満足そうにママッキーさんは頷いていた。
「で、問題はここから――ちょっと切り替えるさね」
あの装置に内蔵されているカメラは三六〇度自由自在に動く事が出来るようにアングルは逐一変わっていた。
映像が次々と切り替わっていく中、一本松の切り株が大きく映し出されていた。しかし、場所は移動できないので切り株までは少し距離があり、映像に鮮明さが欠けていた。
「切り株の上に人影があるの分かる?」
「えっ? ……どこ、ですか」
ママッキーさんは映像を指差したまま律子ちゃんに確認しようとしているが、律子ちゃんには見えてないようで首を傾げていた。
「トモキンは見える?」
「いえ、映像が不鮮明でよく分からないですね」
切り株の上に何か背景とは違う”何か”があるのは何となく分かりますが、それが人影と言われても断言は出来なかった。
「相変わらず手厳しい事だね……だが、しかしっ」
俺の言葉に小さく苦笑いを浮かべたママッキーさんはマトリクサーキットを操作し――
「拡大縮小、左右旋回に加えて、モノクロ撮影からモザイク処理まで何でも出来る『アレ見ちゃ(いや)ん』を見くびってもらっては困るねえ、トモキン」
俺に向かって勝ち誇ったように鼻を鳴らしていた。
別に見くびってはいないけど過大評価もしていないし、期待もしていない。だって始めてみた機械に何の評価が出来るっていうのだろうか?


