「和音さん、大丈夫ですか?」
「ん? ああ、大丈夫。でも、誰があんな噂を……いや、デマにしても」
言葉を濁す和音さんは考え込むように眉をひそめ――
「智樹は『屋上の幽霊』の話を知ってるだろ?」
いきなり妙な話を振ってきた。
「え、ええ……屋上から意味不明な紙を投げるっていうアレですよね?」
「そう。その『屋上の幽霊』っていうのは本当にいるんだ。まあ、幽霊じゃなくて生きてる人間だけどな」
不意に顔を背けた和音さんは少し鼻声になっている気がした。
……泣いている?
そう思ってもさすがにこの雰囲気ではこの先を聞くのは躊躇ってしまう。だが、和音さんが気になる事を言っているのも事実だが、急がなくていいだろう。
「そうですか。分かりました……では、俺達は遅くなったので先に帰りますね」
「んっ、分かった。じゃあ、また明日」
「はい。律子ちゃんの事よろしくお願いします」
「分かってるよ、じゃあな」
軽く片手を上げる和音さんは結局俺の方を振り返る事もなく、俺とコハルは掛ける言葉も見つからずに保健室を出て行くしかなかった。