「ところで、どうしてここに?」
「ん? さっきの話聞いてたろ……気になってちょっと見に来たら、これだ」

 と、律子ちゃんを交互に指差す和音さん。

 倒れている律子ちゃんに直立不動で空を見上げたままの律子ちゃんの二人を交互に見比べたが、透けている以外はまったく変わりがなかった。

「これな、ママッキーの発明らしい。なあ、ママッキー」
「そうざんす。世紀の大発明、その名を『マトリクサーキット』という立体映像投影装置さね」

 ざっぱーんっと背後に大波が描かれた板らしきものを背負って登場したママッキーさんは、「重いがなっ」とフラフラになりながら白衣のポケットから何やら取り出して俺達に向けていた。

 登場のインパクトが抜群でコハルも言葉を失ってママッキーさんを見つめているが、今のママッキーさんはかなり危険なテンションになっているようだ。


 ……やばいな。


 この背中に背負っているのは『怒涛の締め切りラッシュ』という漫画家などが連載を複数抱えて締め切りがダブった際に陥るアシスタント泣かせの生き地獄であり、今のママッキーさんは掛け持ちの部活で発明が煮詰まっている状態を表す赤信号のようなものだ。加えて喋り方がエセマダムと関西人が入り交ざったようになっているのは更なる注意が必要である。

「ちょっと実験していたのだけど、どうやら暴走したみたいだね……ちっくしょー、べらんぼうめっ」

 頭をかいて歩き出したママッキーさんは中庭の植え込みから妙な機械を取り上げて俺達の前に持ってきた。

 赤と緑と黄の三色が怪しく点滅している三〇センチ四方の妙な機械から小さなパラソルのようなアンテナが一本伸びているが、今回はママッキーさんが江戸っ子になっているのが今までない恐怖を与えてきていた。

「ママッキーさん、今回はどうしましたか?」
「ん? 今回は某宇宙ステーションからこの装置を一週間前までに完成させる依頼だったのだが、思いのほか手間取ってしまって……中途半端な仕上がりになっちまったんだよ、ちくしょうっ」

 江戸っ子全開のママッキーさんはかなりの危険人物と化しているが、どこでそんな仕事を受けているのだろうか。