「律子が二人っ? え、え……ど、どどど、どうなって」
「落ち着け、コハル」

 少し遅れてやってきたコハルは及び腰になりながら俺の腕を掴んでいたが、どもりながら腰を抜かして座り込み、真っ直ぐに律子ちゃんの方を見て目を丸く見開いている。

 さすがの俺も腰の骨が砕かれそうな衝撃を受けているが、これは何かあると考えた方が無難だろうな。この学園にいる変な人達は山ほどいるのだ。

 この超常現象みたいな事が出来るのは『黒魔術開発クラブ』と『交霊同好会』、それに『イタコラブ愛好会』などが思い当たる。が、この中に律子ちゃんをこんな目に遭わせた犯人がいても相手にはしたくないのが正直なところである。それに食堂にあったあの紙がただの悪戯だったのか、それとも悪意のあるものだったのかは現状では把握出来ないが、そんな事が些細な事だと思える出来事が目の前で起きているのだから、こちらを解決するのが先決だろう。

「こんな昼間から幽霊は出ないから落ち着けって」
「で、でも……」
「幽霊も時間は守るはず。こんな中途半端な時間帯に出ては幽霊のプライドにも傷がつくってものだろう」
「……プライドなんてあるのかな」

 そこはもう少し強く否定してくれてもいいんだよ、コハル。

「ほら、勇気を出して触ってごらん。きっと生暖かい感触があるはずだから」
「無理! それは無理っ」

 そこは強く拒むんだね、コハル。

「……何をやっているんだ? 二人共」
「きゃあっ」
「うきゃっ――び、びっくりしたっ」

 いきなり背後から声を掛けられて心臓が口から飛び出そうになったが、声を掛けた方もコハルの声に驚いていた。

「……和音さん、不意打ちは卑怯ですよ」
「何を言ってんだよ。それより、律子は大丈夫なのか?」

 振り返った先にいた和音さんは呆れた顔をしていたが、視線を俺達のうしろに動かして表情を一変させて俺の横を通り抜けていった。そのまま律子ちゃんのそばにしゃがみ、脈と呼吸の確認をして安堵した表情を浮かべていた。俺達は驚きで律子ちゃんの安否確認を忘れていたが冷静に対処する和音さんは手慣れたものだ。