「熱っ――でも、おいしい」
「ありがとうございます」

 本当に嬉しそうな笑みを浮かべ、和音さんと話している律子ちゃん。

 なんともほのぼのした時間が流れているが――
「いやあ――りっちゃんの淹れた珈琲はおいしいね」
 この人はなんで普通に珈琲なんぞ飲んでいるのだろうか。

「ありがとうございます」

 しかも、普通に会話している律子ちゃんにも脱帽である。

「それよりも、諸君――むっ?」

 更に普通に会話に加わろうとしている変態部長の目が光った。

「なに? 早く話しなさいよ」
「……いや、ちょっと待って。何か…………来るっ」

 和音さんの言葉を遮り、俺や律子ちゃんにも"動くな"とジェスチャーをしている部長。

 不満そうに唇を尖らせて部長を睨んでいる和音さんは俺に『何? こいつ』と目で合図を送ってくるので、『いつもの事じゃないですか』と送り返した。

「は、はうっ……ううっ」

 ただ、律儀に動くのを止めて待っている律子ちゃんは歩き出そうとしたところだったようで、片足を上げたまま右へ左へと揺れていた。

 相変わらず真面目というか、素直というか。そこが律子ちゃんのいいところなんだろうけど、将来は悪徳業者とかに騙されるタイプだろうな、やっぱり。

「海藤翔はいるかっ! 御用改めであるっ」

 ちょっとだけ律子ちゃんの将来を心配して安全な将来設計をしてやろうかなと考えていると、部室の壁を揺らすほどの大声を出しながら妙なテンションの変な男が乱入してきた。

「おおっ、告白して玉砕された回数一三〇回で七曜学園フラレ男記録を絶賛更新中である風紀委員長の中川君ではないか!」

 説明口調でありがとうと言いたいところだが、火に油を注いでどうするのか、荒い息を吐きながら部室内を見渡すその目は血走っていて野獣のような大男が部長の前に歩み寄っていた。