「でも、どこにいったのかな? あの子、あれで結構足が速いからねえ」
「……こっち」

 腕組みをして考え始めたコハルをよそに俺はもう一度左右を見渡して歩き出した。

「え、なんで?」
「律子ちゃんのいそうな場所は見当が付いている」
「…………ふーん、そうなんだ」

 かなりトゲのある語気で俺を睨むコハルを一瞥し、俺は律子ちゃんがいるだろうと思われる場所を目指していた。

 天然は他人を巻き込んで次々と被害を拡大させていく『誘爆タイプ』と、一人で事を起こして一人で自滅する『自爆タイプ』の二種類に分類されるだろうな。その中には稀に二つを掛け合わせたタイプもあるらしいけど、律子ちゃんは自縛タイプだろう。いつも転んではパンツを丸見えにするのは本人としては不本意なんだろうけどね。

 ……。
 ……。

「いないよ」
「そうだな。これは予想外だ」

 俺の予想した場所には律子ちゃんの姿はなかった。

 律子ちゃんの事だから食堂の隅で蹲(うずくま)っていると思ったのだけど、食堂には人の姿はまったくなかった。

 今から一ヶ月ほど前に律子ちゃんが和音さんに遊ばれて泣きながら飛び出していったときは、食堂の隅で紙パックのいちご牛乳をエグエグと泣きながら飲んでいるのを見つけたからてっきりここだと思ったのだが。

「おっ、翔のところにいる男女の伏峰ではないか」
「違います、大熊猫熊五郎先輩」

 人じゃないのはいるけど……。

「誰が大熊猫だ! 俺はパンダじゃないっ」

 確かに顔は可愛くないですし、図体の大きさは二倍以上ありますけど、漢字がしっくりくるのでこれでいいのですよ、風紀委員長の中川先輩。

「今頃食事ですか? 風紀委員長も大変ですね」
「そうなんだよ。誰が流しがデマか知らないが、新しい七不思議の影響で生徒が浮き足立っておってな。何か起きなければいいと警戒を強化している最中なのだ」

 珍しくまともな事を言っている大熊猫が笹の葉を食べている……わけもなく、手に持ったら小さい器に山盛りのカレーライスを食べていた。


 ……すごいな。


 普通の人なら四人前はありそうな量だがあの人なら一人前って感じだな。まあ、今はそんな事はどうでもいいか。