「覗き事件でこっちは迷惑を被(こうむ)っているのに、この人はそれが分かっていないようだね……少し、お仕置きが必要かな」
「そうだな。律子、珈琲淹れて」

 肘を付いてやる気のない和音さんはすでに飽きた様子で「何か他に遊ぶ事ない?」と俺に聞いてくる始末。

「ですね。その前にこの二人をお願いします」
「しょうがないね……それじゃ、処分してくるかな」

 面倒臭そうに「どっこいせ」と立ち上がった和音さんは徐(おもむろ)に二人を縛ったロープを握って歩き出した。無論、引っ張られる副生徒会長は口を塞がれていても何かを叫んでいるのだが、変態緊縛部長は目覚めた快感に身を委ねて「オーイエスッ」と副生徒会長とは違う意味で熱く叫んでいた。

「アレはいつもの事だから」
「……そうなんだ。トモ兄ちゃんも随分変わったね」

 驚いたように口開けて微妙な顔をしていたコハルは小さく息を吐くと、今度は呆れたような顔を俺で笑みを浮かべていた。

「失礼なヤツだな。俺は昔から何も変わってない」
「変わったよ。前はほとんど家にいなくて、夜も帰らないっておばさんが――」
「コハル、それ以上は言うな」

 何を言いたいのか分かっている。

 コハルの口からこぼれ落ちる言葉の先を聞きたくなった俺はコハルを一喝していた。

「ご、ごめんなさい……で、でも、私はトモ兄ちゃんが」
「心配しなくてもいい。俺はもう過ちは繰り返さないから」

 怯えたように俯きながら俺を見上げるコハルの頭を撫で、俺は聞こえないようにため息を吐いていた。

 不毛な言い争いをしているのは十分に承知しているが、昔を知っている人物というのは相手にし辛いものがある。

「お待たせしま――あ、あれ?」

 そこに何の悩みもない呑気な笑みを浮かべて珈琲カップが載ったトレイを持ってきた律子ちゃんは、注文したお客がいない事に不思議そうな顔をしていた。