「まあ、落ち着いて。ところで……コハル」
「何よっ」
「いつからお前はこんなくだらない事に加担する最低な人間になったんだ?」

 少し怒気を含んだ俺の声に驚き、口を閉ざしたコハル。

「……そ、それは」
「コハルは頭がいいから何が悪い事かは分かっているよね」
「ば、馬鹿にしないでっ」

 必死に体裁を繕おうとしているが俺の顔を見てまた口を閉ざすコハルは顔を逸らして下を向いた。

「まあ、何でもいい。とりあえずここを出てから話をしよう」
「う、わ……分かったよ」

 不貞腐れて俯き加減に俺を見上げるコハルは「痛くしないで」と意味不明な事を言っていたが、俺は一度もコハルに手をあげた事はないはず。まあ、それ以外の精神的攻撃なら数知れず互いに繰り広げてきてけど。

 などと考えなら律子ちゃんを起こし、コハルを促して部屋を出ようとした――。

「そうはいきません事よっ」

 が、『そうは問屋が卸さない』という言葉をこの身で味わう事になろうとは。


 出た……迷惑な馬鹿娘。


 どこから走ってきたのか知らないが息を切らせて駆け込んできた馬鹿娘は、扉を引き千切らんばかりの勢いで開け放ち、部屋中が揺れていていたがお構いなしに上がりこんできた。

 そんな馬鹿娘――副生徒会長を呆気に取られて見つめる律子ちゃんを一瞥して――
「まったく、役に立ちませんわね……」
 鼻息荒くコハルに近づいて見下ろしていた。

 しかし――
「ふん。頭が悪くて出来なかったあんたよりはマシだけど」
 逆に言い返してきたコハルに顔が赤くなっていく副生徒会長。

「出来なかったんじゃなくて、しなかったんですっ」
「……やっぱり馬鹿じゃん」
「なっ――」

 それは思っていても口に出して言っては駄目だぞ、コハル。

「コハル、それくらいにしておけ。馬鹿には馬鹿なりの生き様ってものがあるんだ」
「だけど馬鹿に馬鹿って言って何が悪いのよ。それに、まだ話が済んだわけじゃないだからね、トモ兄ちゃんっ」

 俺を指差して不満を爆発させるコハルだが、俺の視界には段々と豹変していく馬鹿娘の顔が入っていた。